「生きること即ち変わり続けること」
この本を紹介するにあたって、私が思いついたフレーズです。
青山美智子さんの本を購入しました。
皆さんと面白さを共有したいと思っています。
月の立つ林でのあらすじ
題名の「月が立つ」って何かしら?と思った方も多いのではないでしょうか?私もそうです。
実際本を読んでいくと、”つきがたつ”、”ついたち”、”1日(月の始まり)”と変化していきます。
新月が全章の物語の中心的存在となりますが、新月が近づくと亀や珊瑚(p192)が一斉に卵を産むそうです。
(青山美智子さんの以前の作品鎌倉うづまき案内所に出てくる紅珊瑚も関連しているかも?と私はついそう感じてしまう。)
そして、”新月”は”新しい時間のスタート”と取れられるそうです。
新月の日に何かを始めたりするきっかけとなったり、今まで気づかなかったことを気づかせてくれたり、新しい発見をする貴重な日なのかもしれませんね。
この書籍は、月だけにかぐや姫にちなんだ話も出てきますが、昔の話ではなく、現代の日本の何処かに住んでいる5人が主人公となって出てきます。(5章に分かれています。)
それぞれ、関係のない話かと思いきや青山美智子さんのお話の醍醐味であるどこかでつながっていることに気付かされます。一章ごとの自分なりの感想を添えて紹介していきたいと思います。
第1章:誰かの朔
この章の私の感想を一言で言うと
「生きていれば、悩みはつきない。人間だれしも同じ。」
です。
20年間看護師として勤務してきた主人公朔ケ崎怜花(41歳)は、昇級を目前に退職し、父、母(救急医療相談窓口パート)と同居しながら、今後の行き方を模索していきます。
弟であるマイペースで劇団ホルス在籍の朔ケ崎佑樹(ひろき)30歳。(この登場人物名、覚えていると後でいいことあるかも!)の一言がきっかけで、近所の樋口さん方の白猫ルナ(月のこと?)を数日間世話することとなります。
猫の世話の仕方をパソコンで検索しながら、ポッドキャスト”ツキない話“を聞くようになり、そこで見つけた朔と運命的な出会いをします。
その出会いがきっかけとなり、弟佑樹の劇団員としてどう動いているかを再発見し、自分の看護婦の仕事は、「世話する」、「助ける」ことを思い出し、新しい仕事と向き合えるようになっていきます。
第2章:レゴリス
この章の私の感想を一言で言うと
「夢を抱き続けることは、無駄ではない」
です。
レゴリスとは、付きに付いた細かい砂のこと。
信用金庫の内定を蹴り、ミツバ急便の配達員をしながら、お笑い芸人の道を歩み続ける主人公本田重太郎(30歳)。
バイト中に擦りむけた靴づれを見ながら、左右の足=コンビと解釈したりし、休憩中の車内でポッドキャストの”ツキない話“を聞きながら、今の自分自身の生き方と葛藤していきます。
劇作家鮎川茂吉(以前の作品”鎌倉うずまき案内所”P288に登場)が、神城龍主催の劇団を絶賛する劇団員となった元相方サクを羨ましく思いながら、自分が継続しているお笑いとは何かを模索し続けます。その結果、「人を笑わせることが喜びと感じられている自分がいる」からだと、お笑いの良さを再発見していきます。
第3章:お天道様
この章の私の感想を一言で言うと
「誰かが自分と誰かとの心の隙間を埋めてくれる」
です。
40歳で元々務めていた自動車工場を独立し、二輪自動車の整備工場:高羽ガレージ経営する主人公俺(p113)は、妻の千代子、娘亜弥と宅配ロッカー付きのマンション(不在票残す配達員名:2章に出てきた本田さん・・・?!)に住む中、突然、娘の亜弥が結婚、妊娠を宣言され男親の存在意義を模索していきます。
自分だけ空回りしていると思うのは間違い。
自分は必死に家族を支えてきたつもりでいたが、娘にとってはそうではなかったかもと思いながら、自分ってなんなんだろうと考えるようになります。
顔なじみのサニーオートから来た劇団員をしている朔ちゃん(朔ケ崎佑樹)がボディの凹んだ小型バイク(ベスパ?)を持ち込んだ際に、携帯電話やパソコンの活用方法を教えてもらう過程で、ポッドキャストのタケトリ・オキナの”ツキない話“を聴くようになります。
自分のことをバイクいじりオキナなんて冗談を思いついたりしてかわいい一面も見えます。
親になる娘、婿、妻がいるから、自分はひとりで空回りしているのではない。誰かと誰かに助けられながら、また自分も誰かを支えられてきたと、自分の周りの人達のことを再評価していきます。
第4章:ウミガメ
この章の私の感想を一言で言うと
「自立とは、何でも自分でやることではない」
です。
主人公逢坂那智(18歳)は高校生。両親が離婚し、母に負担を掛けたくない、自立しようとバイクの免許を取り、濃いブルーのスクーター(ベスパ=イタリア語でスズメバチ)を購入し、「夜風」と名付け愛用していきます。
毎朝七時に10分間のタケトリ・オキナの”ツキない話“を聴き、お笑いコンビポンサクのポンのファンで、インスタをフォローするお茶目な女の子です。
ウーバーイーツで行った配達先の家に居た同級生神城迅に会い、自分と同じ両親が離婚していると知り、迅くんは切り絵が得意だった母親を今も覚えているという話をします。
母親と喧嘩し、スクーターを走らせている矢先、黒猫を避けて、バイク事故を起こしてしまいます。(バイクは迅くんの親の舞台俳優でサニーオート勤務の朔ちゃんが取りに来る。)
怪我は大したことないですが、親のありがたさを病院で母親に抱きしめられたことで、再確認していくようになります。
第5章:針金の光
この章の私の感想を一言で言うと
「ひとりの時間を持つことと孤独は違うもの」
です。
ワイヤーアクセサリーを作る主人公北島睦子は、旧姓南沢のみなみから、minaと名乗り、ワイヤーアクセサリー作家としていまを生きています。
刺繍、ビーズ、とんぼ玉、羊毛フェルト(これも青山美智子さんの以前の作品”お探しものは図書室まで“に出てきましたね)などのモノづくりをテーマにした本を出版する企画が舞い込み、企画担当の人がお薦めするポッドキャストを聴く過程で、タケトリ・オキナの”ツキない話“を聴くようになっていきます。
モノづくりの先輩である切り絵細工作家リリカと出会い、リリカから、「ひとりの時間を持つことと孤独は別物」と諭されます。
ひとりの時間が欲しくて設置したアクセサリーの作業場で、眼薬と誤って、心を落ち着けるアロマオイルを眼に入れてしまい、自分一人では何も出来ない、誰かに支えられ、病院にも行け、アクセサリー作家も妻も出来ていると気付かされます。
「月の立つ林」の魅力
魅力1 各章の登場人物が複雑に絡み合う
各章の人物が後に出てきたりと、複雑に絡み合っているのが魅力です。
これは青山美智子さんの今までの本でも似たような特徴でもありましたがが、この本はその最高傑作となっています。
「あれっ!?」と読み返したくなるので、やっぱり青山美智子さんの本は「紙の本で買う」のがおすすめです!
魅力2 誰でも感じること、経験したことが物語の主題となっている
数ある書籍でも同じような話題の話も存在しています。
けれども、青山美智子さんの今回のお話は、まさに今読まなければならないと感じさせてくれる書籍です。
人間関係、姉弟関係、親子関係、夫婦関係を取り上げています。
誰もが一度や二度は、感じたこと、考えたことを主人公たちが、物語の中で読者である私達の思いを代弁してくれたり、経験してくれたりしていくので、「そうそう、そういう気持ちってあるんだよねえ。」と思いながら、読み進めていけます。
魅力3 生きていれば、色々な悩みは尽きないものである
いままでの仕事に、生き方に向き合いながら、奮闘する主人公の姿は、誰でも悩みはある。自分だけと思って居たけど、不安がることはない。
だからこそ、きっと歯を食いしばったこともマイナスではなく、自分の大きな力になっていると気付かされます。
誰にも聞けない、相談できず、不幸な道、間違った道へ行くことは残念なことです。
この書籍と出会ったからこそ、ひとりで居たいことと孤独は全く同じではない。誰もひとりでは生きてはいけない。
こんなにもたくさん、周りに誰かが居るのだから、大人だから、友達がいないから、男だから、自立しているからなどと考えず、頼れる時は手を差し伸べていいのです。
その差し伸べられた手を温かく包み込んでくれる人は必ず居ます。
まとめ
月と太陽の関係は、人間、私自身の姿を表す。
人間関係にも通じ、また仕事にも通づる。それまでと同じ環境ではなく、軸は変えずにそのあるべき立ち位置でできることが存在する。
月は毎日姿を変える。途切れなく続く毎日の中で、輝きながら、消えながら。(p260)という記述に来た時には、もう涙が止まりませんでした。