🧭序章:なぜ働いても豊かにならないのか
「一生懸命働いているのに、全然お金が貯まらない」
多くの人が抱くこの違和感。
その答えを、フランスの経済学者トマ・ピケティは、たった3文字で示しました。
r>g
(資本収益率は経済成長率よりも大きい)
これはつまり、「労働による成長(g)よりも、資産が生み出すリターン(r)の方が速い」という法則です。
この不等式が意味するのは──
働くだけでは、資産を持つ人のスピードに追いつけないという、厳しい現実です。
第1章:r>gとは何か──ピケティの残した方程式

ピケティが分析した200年以上のデータによると、
どの時代も「資本収益率(r)」は年4〜5%前後で安定し、
「経済成長率(g)」は2%以下にとどまっていました。
つまり、
- 働く人の所得(g)はゆっくり増える
- 資産を持つ人の収益(r)は速く増える
その結果、時間が経つほど格差が拡大する。
これが「資本主義の宿命」なのです。

第2章:労働から資本へ──収入構造の変化

昔は「勤勉に働けば豊かになれる」と信じられていました。
しかし現代では、努力と報酬の関係はどんどん薄れています。
たとえば同じ年収500万円でも、
- すべてを労働で得る人(g)
- 配当・利息・不労所得を組み合わせる人(r)
では、可処分所得と将来の伸び率がまったく違います。
資本主義とは、「お金にも労働させる仕組み」です。
お金が働けば、自分が休んでいても富が増えていく。
つまり、rの側に立たない限り、時間とともに差が開くのです。
第3章:なぜ貯金ではr側に立てないのか

多くの人が「お金を貯める=資産を持つ」と誤解しています。
しかし、預金金利が0.001%の時代、貯金は実質的に資産ではなく「眠っているお金」です。
rを得るとは、お金を「働かせる」こと。
それはつまり、
- 株式
- 債券
- 不動産
- 投資信託
といった生産活動に資本を貸し出すことを意味します。
銀行に預けるのではなく、企業や市場に参加する。
そこで初めて「資産の所有者」として、rの恩恵を受け取れるのです。

第4章:rを得る者、gに縛られる者

r側の人間は、時間の経過そのものが味方になります。
市場が成長すればするほど、何もせずに資産が膨らむ。
一方、g側の人間は、時間が経つほど疲弊していきます。
たとえば年収が3%上がっても、
物価が2%上昇すれば実質の手取りは1%増。
しかも、病気やリストラで一気に途絶えるリスクがある。
r側の人は違います。
インデックス投資を続ければ、世界経済の平均成長(5〜7%)を取り込める。
しかも、複利が働くことでリターンは雪だるま式に増えていく。
第5章:rを味方にするには──「持つ」ことから始めよ

この不等式に抗う唯一の方法は、rの側に立つこと。
つまり、資産を「持つ」こと。
少額でも構いません。
たとえば毎月1万円でもインデックス投資を始めれば、
あなたはその瞬間から「資本主義のプレイヤー」になります。
市場全体(S&P500やオルカンなど)に投資すれば、
企業が生み出す利益の一部が、あなたのrとして還元されます。
r>gの世界では、「持つ」ことが最大の分岐点なのです。
第6章:税金と手数料──rを削る「見えない敵」

ただし、rを得るには「純粋なリターン」を守る意識も必要です。
せっかくのrも、
- 頻繁な売買で税金が発生
- 高コストの投資信託で信託報酬が奪われる
といった要因で簡単にg側へ引き戻されます。
インデックス投資が強いのは、低コストで継続できるから。
「市場平均」を目指すだけで、世界のrに乗れる。
これ以上に効率的な方法はありません。
第7章:r>gの残酷さ──それでも希望はある

確かに、r>gは残酷です。
生まれながらに資産を持つ者が、圧倒的に有利。
何も持たない人は、スタート地点で既に差がついている。
しかし、この構造を「知ること」こそが第一歩。
仕組みを理解し、少額からでもr側に立てば、
格差社会に立ち向かう武器を手に入れることができます。
【閑話休題】rとgは何の略?
r>g自体は聞いたことある方が多いかもしれません。
では、何の略なのでしょう?
ピケティが用いた「r」と「g」は、それぞれ英単語の頭文字から取られています。
🔹 r = rate of return on capital
- 意味:資本収益率
- 頭文字の由来:r = rate(率)
- 資産(資本:capital)が生み出すリターン(配当・利息・値上がり)を年率で表したもの。
- 式で書くと:

例:株式100万円が1年後に5万円増えたら、r=5%。
🔹 g = growth rate of the economy (or income)
- 意味:経済成長率または所得成長率
- 頭文字の由来:g = growth(成長)
- 経済全体、または平均所得がどれだけ増えるかを示す年率。
- 式で書くと:

🔸 まとめると
| 記号 | 英語表現 | 日本語訳 | 意味 |
|---|---|---|---|
| r | rate of return on capital | 資本収益率 | 資産が生むリターンの割合 |
| g | growth rate of the economy | 経済成長率 | 経済や所得の成長スピード |
つまり、
r>g
とは
「資産のリターン(r)の方が、経済や労働収入の伸び(g)よりも速い」
という意味です。
この不等式が長期的に成り立つかぎり、
資本を持つ人(r側)は、持たない人(g側)より速く豊かになる
──それがピケティの提示した、資本主義の核心なのです。


第8章:rの恩恵を最大化する「時間の力」

ピケティの分析では、rは年4〜5%程度。
単年では小さく見えますが、複利の力を通せば景色が変わります。
たとえば年5%で運用すれば、
- 10年で+63%
- 20年で+165%
- 30年で+332%
「お金に働かせる」とは、時間を味方につけること。
一方、g側の労働収入は、働く時間を増やすほど寿命を削る。
時間があなたを支配するか、あなたが時間を味方にするか。
rとgの違いは、そこにあります。
第9章:子ども世代への「r教育」

この不等式の本当の怖さは、世代をまたぐ格差にあります。
親が資産を持っていれば、そのrが次世代へ引き継がれる。
つまり、「持つ者の家系」はますます豊かになり、
「持たざる者」は労働に縛られ続ける。
だからこそ、今からでもr側に立ち、
子どもに「お金に働かせる」考え方を教えることが大切です。
教育とは、知識だけでなく構造を教えることでもあります。
第10章:結論──航路を変えるな、rを信じろ
r>gという不等式は、単なる数式ではありません。
それは、資本主義という巨大な海を航海するための羅針盤です。
- 働くだけでは追いつけない
- 持たないままでは、いつまでもgの側
- しかし、少額でも「持てば」r側に立てる
あなたの積み立てているNISA口座は、r側への片道切符。
航路を守り、淡々と積み立てを続けることこそ、
この不等式を超える唯一の戦略です。
🌅エピローグ:あなたのrが、誰かの希望になる
資本主義は残酷に見えて、実は美しくもあります。
あなたが投資した資金は、企業の成長を支え、雇用を生み、社会を動かす。
つまり、rを得るとは世界の一部を支えることでもあるのです。
r>gの時代に生きる私たちへ──。
持たざる者として嘆くより、
「持つ者」として小さく始める勇気を。


